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かぎろひNOW

悠久の奈良大和路を一歩ずつ  風景、もの、人…との出会いを楽しみながら

水の女 

10月7日、奈良は未明から雨が降り続いた。

で、思い出したのが、9月27日に豪雨に遭ったこと(笑)
たまたまその日は夕刻から、奈良博に所用あり。
曇りのち雨という予報だったかな。いつもなら自転車で行くのだが、万一を考えてバスに。ちょっと早めに出て、近鉄奈良で降りて散策がてら博物館へ向かう予定だった。

近鉄奈良駅に着く頃には、バスの窓にポツリポツリ。降りてみたものの、雨はにわかに激しくなり、歩くどころではなくなって、再びバスの人に。
下車したバス停から博物館まで、ものの1分もかからない距離なのに、傘をさしても足元がずぶぬれ状態^^;

しかも約束の時間には早すぎて。

221027奈良博

降りしきる雨をボーゼンと見つめるしかなかった。

221027奈良博2

221027奈良博3

やっぱりアメオンナなのか…

あ、でも、今日はどこへも行ってないよ、念のため(笑)


雨を見ながら、辻邦生の短編に、豪雨の中を女性が傘もささず濡れるにまかせて歩くシーンがあったことを思い出していた。タイトルは『水の女』

久しぶりに読んでみた。

6月終わりの都会の歩行者天国。大通りは若い男女であふれている。
遠くで雷鳴。さっきまで広がっていた青空がいつのまにか厚い灰色の雲で覆われる。

稲妻が紫いろに閃き 雷鳴が頭のすぐ上で轟くように鳴り渡る空から 一粒二粒と大粒の雨が降り出した時 歩行者天国に集っていた人々は まるでその日に予定されていたプログラムの中のイヴェントが起ったかのように わっと喚声をあげ 陽気に騒いで 一散に雨宿りの場所を目ざして駈け出したのだった

大通りはあっという間に空虚になり 物凄い勢いで降りしぶく雨に包まれた あたりは前よりも暗くなり 店々のショウウインドーのあかりが 夕暮れ時のように 急に なまめいた みずみずしい光に見えはじめた 雨は天空の底がぬけたように 一度に垂直に 滝さながらにふりそそいだ 雨脚が激しくコンクリート道路に当り 白いしぶきとなって跳ね返り みるみる濁流となって流れた


この大雨の中を1人の女性が歩いていく。

そのがらんとした大通りを 若い女が首をうなだれるようにして ゆっくりと歩いてゆくのだった 歩きだしてまだ間もないのに 長い髪も 白いコットンのドレスも すっかりぐっしょり濡れていた ぼくの眼から見ると その女のドレスはひどく古風な感じだった 細い衿がぴったり首を包み 両袖も長く 手首をカフスで留めてあり スカートも長く踝まであって フレヤーがたっぷりと拡がり 一昔前のどこか仏印あたりの植民地を歩いている西洋人の若い貴婦人といった感じだった

それが雨に打たれたため ドレスはぐっしょりと濡れて肌に張りつき 白い布地がほとんど透明になって 美しい肩や胸の膨らみが まるで裸になったように肌の柔かい肉色ごと くっきりと そこに浮び上っていたのだ 長いフレヤースカートも重たげに水を含んで よく伸びた形のいい脚にまつわりつき 腰のしなやかな動きを際立てながら 太腿と太腿の間に まるで蛙の指の股の皮膜のように貼りついていたのだった


この後、ミステリアスな展開になる、幻想的なお話。

気になる方は一読を。『睡蓮の午後』所収。

221007睡蓮の午後

『睡蓮の午後』には12の短編が収められているが、他の作家が書いた文章の一節を冒頭に置き、そこから辻邦生の物語世界が広がるという冒険的野心作。パロディ小説とも言われているのだが。

辻夫人の佐保子さんは、次のように書いている。
昔から愛読していた作家や、近年になって夢中になったラテン・アメリカ文学から、まず冒頭にその一節を引用し、これに憑依して一挙に自分の創作世界に乗り移るという〈曲芸〉を楽しげに演じている。他の作家の本を読んでいると「書きたいことが溢れてきて、続きが読めなくなってしまう」とよく言っていたのは、まさにこのことかと思いあたる。
(『「たえず書く人」辻邦生と暮らして』から)

所収の12編すべて、文章には異例にも句読点がつけられていないのだが、それがどこか現実から遊離したような不思議な感覚をよびさます。

引用されている作家は、トーマス・マン、コクトー、ボルヘス、シュトルム、モーパッサンなど。
ちなみに『水の女』はヘッセ。

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Posted on 2022/10/07 Fri. 22:33 [edit]

category: 辻邦生

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