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かぎろひNOW

悠久の奈良大和路を一歩ずつ  風景、もの、人…との出会いを楽しみながら

『銀杏散りやまず』から 

9月22日、夫が退院して、ちょうど1か月になります。近況報告をば。

最近、食材の買物は、夫が1人で行くようになりました(重たい調味料や牛乳、お酒の類はワタクシが自転車で)。

夫は買物してから帰りはバスを利用するのですが、乗る時に電話がかかります。ワタクシはそれを受けて最寄りのバス停まで自転車で走り、荷物を貰い受け、お先に~。

というスタイルに。一歩前進、しましたよね(笑)

最初は、先に帰ったものの、ちょっと心配で、外で待っていたのですが、なかなか姿が現れません。何かあった? 倒れていたりしてへんやろか…


待ち続けていたら、別の方向に姿が見えてホッ。

220914遠回り

リハビリのため遠回りして歩いていたのでした。それなら、バスじゃなくて帰りも歩いたらと思われるかもしれませんが、それはまだちょっと距離が長いようなんです。退院してすぐの頃、いきなり往復3.5kmほど歩いたら、腰が痛くなったようで。
その後、検診に行った総合病院で「歩き過ぎはマイナスです。腰が痛くなるほど歩いてはいけません」と言われたのでした。ちょっとずつ距離を伸ばすのが大事なんですね。

220914遠回り2

↑まだまだ猛暑続きの9月14日のこと。誰も歩いていない時間帯。
いやはや、努力しているなあと、ちょっと胸が熱くなったのでした。


たまたま、『銀杏散りやまず』(辻邦生)を再読しかけて、以前はスッと読んでいた下りで立ち止まり、何度も確認してしまいました。

『銀杏散りやまず』というのは、お父様の死をきっかけにして書かれたもので、辻邦生の他の作品とは大きく異なります。

220914銀杏散りやまず

父の死を直接の契機として、親子二代にわたり、それぞれの事情から、長らく忌避し、逃亡し続けてきた過去と故郷をふたたび見出すまでの現実の記録である。執筆中に起こった辻家古文書発見の経緯やその内容に至るまで、ほぼそのままに書かれている。(『「たえず書く人」辻邦生と暮らして』(辻佐保子)より)


『銀杏散りやまず』が「新潮」で連載が始まったのは、お父様の四十九日法要を終えて間もなくだったそうです。
私は、自分のことにかまけてゆっくり耳を傾けることもしなかった事柄を、遅まきながら、もう一度聞いてみたいと考えた。父がよく話した甲州について、納得ゆくまで調べ、父が心に描いたものの本当の姿を私もじっくり眺め、父が笑ったものを笑い、泣いたものに泣こうと考えたのであった。「(『銀杏散り止まず』歴史紀行」より)


日記、ルポ、旅行記の趣もある、いわばノンフィクション?


最初に、お父さんが脳溢血で倒れたことが語られます。
意識がない状態で救急病院に運ばれるのですが、翌日、奇跡的に回復。3週間足らずで退院。

しかし、幾分発音は不明瞭であり、手足に軽い麻痺が残った。
他の部分は日に日に健康なのに、この手足の麻痺は気の毒だった。まだ普通の人と同じ速度で歩けるよ、といつも得意になっていた老人が、よちよち小またで、杖を頼りに歩かなければならない姿は、見ていて、気の毒だけでは済まされない気持だった。


辻邦生のお父さんは琵琶弾奏家でした。

手足が麻痺してから、いちばん気の毒だったのは、琵琶が昔のように弾けなくなったことだった。父は薩摩琵琶を六十年弾きつづけ、そのことで叙勲までされていた。琵琶は父の生命であり…

琵琶さへ弾いていれば、いかに貧乏でもまったく痛痒を感じないーそんな様子が見てとれた。

私はある日、動かなくなった手を激しく泣きながら打っている父を見て、部屋に入れなくなったことがある。

この身体の麻痺と戦う父の努力は何とも物凄いものだった。父は晩年にはいっそう柔和になった顔しか見せなかったが、むろん内心はそれでおさまるようなものではなかったろう。母の話によって、父が杖にすがってよちよち歩きながら、近所の散歩をはじめたことを知った。手の動きを元に戻すために、握ったり振ったりする訓練もしていた。

私は母の話を聞いてあれこれ考えたが、結局、父がしたいようにさせるしかないと思った。父は毎日散歩し、よちよち小刻みに歩きながらすこしずつその距離をのばしていた。



父の恢復は遅々としていたが、もはや歩き方はよちよちではなかった。琵琶のほうも弾き方がしっかりしてきた。

そうして、米寿を祝う琵琶弾奏会が国立小劇場で開かれるまでになった、ということです。

夫とは原因も後遺症も違いますが、いや、もっと重症に思えるお父様が、毎日の努力によって回復されていった様子を読んで、驚きつつも、希望を見出すのです。

こんなふうに辻邦生を読んだのは初めてかも(笑)。

それにしても、お父様が病を克服して長寿を全うされたというのに、息子が73歳という若さで逝ってしまうなんて。
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Posted on 2022/09/22 Thu. 10:47 [edit]

category: 辻邦生

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