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かぎろひNOW

悠久の奈良大和路を一歩ずつ  風景、もの、人…との出会いを楽しみながら

志賀直哉と奈良公園 

先日このブログで、飛火野から奥飛火野を抜けると高畑たかばたけの志賀直哉旧居のところへ出る、という記事を書いたらicon52、夫の友人Yさん(京都市在住)からメールが届いた。

美しい写真を見ていてボーっとしたことなどが書かれてあり、最後に、志賀直哉は奈良で永いこと住んでいたんですか? とお尋ねされている。

ワタクシ、志賀直哉は10年ほど奈良に住んでいたこと、ここで『暗夜行路』を書き上げたらしいこと、旧居は直哉自身の設計によるもので家族思いがわかることなどを、きちんと調べもしないで、自分の知っていることだけを簡単にメールで書き送った。

そして、見学もできること、春日大社からささやきの小径を抜けていくルートが素敵なこと、あるいは私のように飛火野からいくつかの沢を渡って行くのもまた楽しいというようなことなども書き添えたのだが…。

最後は、ホームページに丸投げ^^;
→奈良学園セミナーハウス 志賀直哉旧居



後で、簡単すぎて失礼だったかしらなどと、アレコレ気になり、夫の本棚に「志賀直哉全集」(岩波書店)があったことを思い出して、手にとってみた。


奈良に関する随筆は、全集14巻のうちの第7巻に所収されていた。






志賀直哉旧居のホームページにも載せられているが、「奈良」と題する随筆はつとに有名。↓

 兎に角、奈良は美しい所だ。自然が美しく、残っている建築も美しい。 そして二つが互いに溶けあってゐる点は他に比を見ないと云って差支えない。 今の奈良は昔の都の一部分に過ぎないが、名畫の殘欠が美しいやうに美しい。
(昭和13年)


それからパラパラと見ていくと、「置土産」という随筆の一文に目がとまった。


 奈良公園から公園という稱呼を去(と)って、奈良神苑、或ひは奈良何々といふやうな、なにかいい名を考へ、他の市にある普通の公園からはつきりと此公園を區別して了ふがいいと思つた。東京の日比谷公園、上野公園、浅草公園、大阪の天王寺公園、中之島公園、皆公園にちがひないが、奈良公園を同じ公園の呼名で云ふのは少し間違ってゐるやうな氣がして來た。或る廣ささへあれば何所にでも作れる公園と奈良のやうな千何百年の歴史を持ち、更にそれ以前からの原始林をひかえてゐる自然の庭のやうな公園は一緒にならない。…



↓奈良県庁屋上から(2012.4.29撮影)





ワタクシ、かねがね、どんな名園と云われる所へ行っても、奈良公園ほどすばらしい所はないと感じてきた。というよりも、奈良公園は、公園と名がついているとは言え他地の公園とは全く別物やね、という感じ。さほど旅をしているわけではないけれど、奈良公園にまさる公園があるとは思えない。


へぇ、志賀直哉にこんな一文があったなんて!
急に、この文豪に親しみを覚えて、うれしくなったのだった^^;


だが、すぐその後に、こんな文章↓を発見して、ムッとしたface09


 古への奈良の都の八重櫻といふ櫻は知足院といふ寺にあるさうだが、未だ見ない。
 春日神社の回廊から左へ降りた所にも立札をしてその貧弱な八重櫻があるが、名高い和歌の名譽のため、あれはなくもがなだ。
(「奈良の櫻」より 昭和6年)



※円亀山人さんから、志賀直哉の「奈良にはうまいものがない」という例の一文についてのコメントをいただいたので、原文をひいておきたい。

 食ひものはうまい物のない所だ。私が移つて來た五六年間は牛肉だけは大變いいのがあると思つたが、近年段々惡くなり、最近、少しよくなつた。此所では菓子が比較的ましなのではないかと思ふ。蕨粉といふものがあり、實は馬鈴薯の粉に多少の蕨粉を入れたものだと云ふ事だが、送つてやると、大概喜ばれる。豆腐、雁擬がんもどきの評判もいい。私の住んでゐる近くに小さな豆腐屋があり、其所の年寄の作る豆腐が東京、大阪の豆腐好きの友達に大變評判がいい。私は豆腐を剰り好かぬので分からないが、豆腐好きは、よくそれを云ふ。

(「奈良」より 昭和13年)

この文章は、最初に引用した「兎に角、奈良は美しい所だ。」の10行ほど前に書かれている。

同じ、「奈良」という随筆の最初のほうには、先に東京へ引きあげた家族のもとへ行った直哉が「妻子五人ゐる自分の家にいながら、二三日すると、矢も楯も堪らず、奈良に歸りたくなるのは不思議な位だ。」と書いてあったりもする。

インパクトのある1行は、そこだけ独り歩きしがちだが、やはり全文を読まないとなあ思ったことであった。

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Posted on 2012/05/18 Fri. 07:38 [edit]

category: 読書

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コメント

 

円亀山人さん
こんばんは!
>作品そのものを読まずに結論をきめてしまう
はい、私自身がそうだったので反省しております^^;
有名なところだけは知っていましたが、全体を読むとまたちょっとニュアンスが違っていたりしますね。
昔に『暗夜行路』を読んだくらいで、これでは何も知らないのと一緒ですよね。
この機会に少しでも読んでおこうと思いつつ、あれからそのまま…

URL | かぎろひ #79D/WHSg | 2012/05/21 00:33 | edit

 

あるワンフレーズだけが独り歩きする怖さ。
有名作家の発言ほど注目されるのですが、一定の長さで
書かれた文章の全体像、いいたかった事象と発言の真意。
どうも読者はマスコミに乗せられやすく、作品そのものを読ま
ずに結論をきめてしまう。私自身がそうだったので恥じるばか
りです。白樺派そのものへの批判的観点が後押ししているの
かも・・・。でも誰にでも弱点はありながら、覚めたリアリズムで
凝視する目は確かで小林多喜二が私淑していた理由もその辺
にありそうです。
戦後、広津和郎、宇野浩二と共に、完璧にフレームアップだった
「松川事件」の被告たちへ温かい応援をしたのも、彼らしい独自の
自我の防衛という観点からでしょう。でもクセのきつい人でしたね。

URL | 円亀山人 #79D/WHSg | 2012/05/20 21:04 | edit

 

円亀山人さん
こんにちは!
「奈良にはうまいものなし」の原文をUPしておきました。
その後に、お菓子や豆腐の評判がいいことも書かれていたんですね。
豆腐が好きじゃないって、お酒は飲まなかったのだろうか、などと考えてしまいました。実は“食ひ物”には、さほど興味がなかったりして^^;
今度は、奈良の名誉のためにも、そのあたりにも注意して読んでみようかなと思いました。
ありがとうございました。
それから、この文豪が、国語をフランス語にしたらどうかと提案したという話。
あきれるというか、疑うというか。どうもあまり好きになれないところです…

URL | かぎろひ #79D/WHSg | 2012/05/18 13:49 | edit

 

かぎろひさんを「ムッ」とさせた志賀直哉の一文、分からないでもない。
だが、もっと「ムッ」とさせるのが、かの有名な「奈良にはうまいものなし」で
知られる「随筆奈良」(1938年)ではなかろうか。
正確には「食い物 はうまいもののない所だ」と書かれているそうですが、
私は未読で知りません。
かねがね、かぎろひさんのブログで紹介される「美味処」、うらやましく
感じつつ、志賀直哉はどこで何を食べていたんだろうと疑問に思っていま
した。しかし、tetsudaブログ 「日々ほぼ好日」にてミシュラン「三つ星」が
25店もあるとの記事を読み、さもありなんと納得。
思えば最高の「三つ星」は、龍センセの手料理で、かぎろひさんは直哉に
誇れる幸せ者なのでは?

URL | 円亀山人 #79D/WHSg | 2012/05/18 11:47 | edit

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