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かぎろひNOW

悠久の奈良大和路を一歩ずつ  風景、もの、人…との出会いを楽しみながら

夏目漱石『明暗』 

日経新聞で夏目漱石を題材にした小説「ミチクサ先生」(伊集院静)が連載されているということを最近知った。
昨年の11月にスタートしたのだとか。
そんなことはつゆ知らず、ちょうどその頃、ワタクシ、ン十年ぶりに夏目漱石を読み始めた不思議。

ワタクシにとってなぜ今、夏目漱石なのか。
いやなに、答えは簡単である。

引っ越し前は夫の部屋のいちばん奥の、本棚の最下段にあった全集が、今はリビングの、目の高さにあるのだ(笑)

2105漱石全集

漱石を読んだのはたぶん高校生の頃だと思う。『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『三四郎』ぐらい。そうそう『心』は教科書に載っていたよね。


何だか懐かしくなって、ページをめくると、文字が大きくてとても読みやすい装丁。漢字すべてにルビ。昭和41年の発行だけれど、かなり先見の明があるのでは。

2105明暗2


それにしても、漱石さんの文章って時代を感じさせないよね。ほぼ同時代の、森鴎外や樋口一葉と比べてみると歴然。こちらは今や、文語の感がある。

というわけで、まずは『心』を読破。短編だし、高校時代が懐かしくなって。あの頃のように純粋な気持ちでは読めなかったけれど^^;

次に、漱石最後の小説『明暗』。執筆中に亡くなったので未完としても有名。読むのは初めてである。

2105明暗


会社員の津田由雄とお延という新婚の夫婦をめぐる小説。
ストーリーが展開するというより、ゆっくりとそれぞれの心理が描写されていき、やがて、新婚さんなのに何だかわだかまりがあるなあという感じ。そのうちに、由雄さんには結婚前につきあっていた人がいて、吹っ切れていないのではということに気づかされる。どうも、納得して別れたというより、わけもわからないうちにフラれたようである(笑)。つき合っていた人は清子さん。今は人妻となっている。

お延にはそれをひた隠し。けれどもお延さんは徐々に感づいて、心穏やかならず。

由雄は持病が悪化して入院。退院後、温泉宿に湯治に行く。かつての恋人、清子さんがいるとわかってのことである。
温泉宿で清子さんと再会。

これからどうなるの、とはらはらドキドキしたとたん、小説は終わり。
作家の胸のうちには、結末までのストーリーがあったはずなのだろうが、もどかしすぎる(笑)


せめて、再会するシーンを、紹介しておこう(笑)
津田由雄は温泉に入った後、広い建物の中で迷子になる。

「誰でも可(い)い、来たら方角を教えて貰はう」
 彼は決心して姿見の横に立つた儘、階子段(はしごだん)の上を見詰めた。すると静かな足音が彼の豫期通り壁の後で聴こえ出した。其足音は實際静かであつた。踵へ跳(は)ね上る上靴(スリッパ)の薄い尾がなかつたなら、彼は遂にそれを聴き逃して仕舞わなければならない程静かであつた。其時彼の心を卒然として襲つて来たものがあつた。
「是は女だ。然し下女ではない。ことによると…」
 不意に斯う感付いた彼の前に、若しやと思つた其本人が現はれた時、今しがた受けたより何十倍か強烈な驚きに囚はれた津田の足は忽ち立ち竦んだ。眼は動かなかつた。

同じ作用が、それ以上強烈に清子を其場に抑へ付けたらしかつた。階上の板の間まで来て其所でぴたりと留まつた時の彼女は、津田に取つて一種の絵であつた。彼は忘れる事の出来ない印象の一つとして、それを後々迄自分の心に傳えた。

彼女が何気なく上から眼を落したのと、其所に津田を認めたのとは、同時に似て實は同時でないやうに見えた。少くとも津田にはさう思はれた。無心が有心に変る迄にはある時が掛つた。驚ろきの時、不可思議の時、疑ひの時、それ等を経過した後で、彼女は始めて棒立ちになつた。横から肩を突けば、指一本の力でも、土で作つた人形を倒すより容易く倒せさうな姿勢で、硬くなつた儘棒立ちに立つた。
……
……
清子の身體が硬くなると共に、顔の筋肉も硬くなった。さうして両方の頬と額の色が見る見るうちに蒼白く変つて行つた。その変化がありありと分つて来た中頃で、自分を忘れてゐた津田は気が付いた。
「何うかしなければ不可ない。何処迄蒼くなるか分らない」

津田は思ひ切つて声を掛けようとした。すると其途端に清子の方が動いた。くるりと後を向いた彼女は止らなかつた。津田を階下に残した儘、廊下を元へ引き返したと思ふと、今迄明らかに彼女を照らしてゐた二階の上り口の電燈がぱつと消えた。津田は暗闇の中で開けるらしい障子の音を又聴いた。


(原文の旧字体にはなっておりませんがご容赦ください。一行あけもこちらが勝手にやりましたm(__)m)

とまあ、こんなふうな再会をし、翌日、清子は津田を部屋へ招き入れるのだ。

いやー、ここで終わりとは何とも、何とも…。
続きが読みたーい。

この続きが読める幸せに浸った。

2105続明暗

水村美苗さんが、漱石と違和感のない文体でみごとに完結させた小説『続明暗』については改めて。

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Posted on 2021/05/19 Wed. 08:13 [edit]

category: 読書

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