かぎろひNOW
悠久の奈良大和路を一歩ずつ 風景、もの、人…との出会いを楽しみながら
あの女(ひと)に、会って

ミラノのポルディ・ペッツォーリ美術館から初来日中の「貴婦人の肖像」。
7月14日、この人に会うために、あべのハルカス美術館へ。

ワタクシが親しんできた『十二の肖像画による十二の物語』(辻邦生著)の表紙を飾るこの女性と同一人物ですよね。

画家はどちらも、ピエロ・デル・ポッライウォーロ。15世紀フィレンチェで活躍したと言われます。
ただ、こちらの絵↑は、ベルリン国立絵画館所蔵。
着ているものや装身具、へスタイルなどは違いますが、広い額から流れ出す線が鼻梁、口元、顎へいたる何という美しさ! モデルはまぎれもなく同じ女性でしょう。
ポルディ・ペッツォーリ美術館からやってきた女性は
結い上げた髪の毛に真珠の飾りをつけ、薄いガーゼのようなヴェールで耳を覆い、首には大きなルビーと真珠のペンダント。
説明によると、真珠の白は純潔を、ルビーの赤は愛の情熱を象徴するそうで、この肖像画は結婚の際に制作されたらしいとのこと。婚礼が決まると肖像画(横顔)を描かせる習わしがあったこと、緑色のドレスは婚礼の季節である5月を象徴するものであるとも。

館内でその人を見つめていると、あれっ、『十二の肖像画による十二の物語』の表紙で見続けてきた人と印象がずいぶん違うことに気がつきました。もしかしたら、別人? と思うくらい。
ちょっと比べてみますね。

右の女性が初々しく溌剌としているのに対して、左の女性はどこか憂いを含んだ表情ではありませんか!
顔の輪郭からみて、同一人物であるのは間違いなさそうですが、描かれた年代に隔たりがあるのでは。
結婚前、結婚後?
結婚前はまっすぐ前を向いていた視線が、結婚後は内面を見つめてもの思いにふけっているような。
結婚生活は幸福ではなかったのだろうか。
などと、勝手な想像がどんどんふくらみます^^;
調べてみると、なんということでしょう、憂いに満ちたほうが先に描かれたようです。
うーん。憂いとみえたのは若い時特有のもの思いか、悩み多き恋? 結婚が決まって何もかもふっきれたのは間違いなさそうですが・・・。
それにしても、肖像画は魅力的ですね。
そこから起こる感興を辻邦生ならではの短編に紡いだのが『十二の肖像画による十二の物語』。
辻邦生は、この女性を主人公に、「謀(たくら)み」という題名をつけて、ドラマチックな物語に仕立てています。
女性の名はポリーナ。
・・・
当時のフェラーラ宮廷の、立居振舞いの優雅さを競うなかで、ポリーナの風変わりな趣味は、とくに若い宮廷人たちの話題となった。彼らは、ポリーナの物静かな挙措と可愛らしい容貌に魅了されながらも、この風変わりな好みのために、気軽に近づくことができなかった。気むずかしいのでもなく、冷淡でもないのだが、どこか、涼しげに笑っている表情が、男たちに、一瞬のためらいを与えたのである。
・・・
この後の展開、気になる方は、実際の本でどうぞ。
ハードカバーはたぶんもう出版社にもないと思われますが、その後に出た『十二の風景画への十二の旅』とあわせ、二十四の絵の物語『風の琴』として、文春文庫から出ています。

文庫本とはいえ、絵はカラーで入っていて、いろいろな楽しみ方ができます。
※「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション」は7月21日(月・祝)まで
あべのハルカス美術館
http://www.aham.jp/
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コメント
うれしい限り
おはようございます!
なぜか、朝から自分のコメントが反映されず、困っています。3回目に挑戦。
私も、2冊の初版単行本を大事に、歴史小説集成にもあり、「風の琴」を愛読。なんぼほど好きやねんと苦笑しつつ、でも文庫本って手軽でいいですよね。
展覧会にはボッティチェリのもあったので、続いて『春の戴冠』をネタにしようかと思ったり・・
エッセイは急がれませんように。あれこれ想像しているのも楽しいものです。
久し振りの辻邦生ネタに満足
「12の肖像画・・」「12の風景画・・」ともに初版単行本もってますが、ご指摘の文庫本『風の琴』も便利なので手元にあります。
このヒロイン、もの静にかな佇まいからは想像もだきない内的情念を行動化できる女性だった。長い修道院暮らしと「乗馬」趣味の結合がイマイチスムーズに理解できなかったけれど、ヨーロッパの事情にウトイだけでしょうね。それにしても物語のラストは凄味があり過ぎてす。
予定していた辻さんの樋口一葉朗読に関するエッセー、お送りするのが遅れています。ごめんなさい。
URL | 円亀山人 #- | 2014/07/16 00:15 | edit
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