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かぎろひNOW

悠久の奈良大和路を一歩ずつ  風景、もの、人…との出会いを楽しみながら

名残の花 

近くの書店でふと手にとってぱらぱらっとめくったら、能の金春流と関係がありそうな展開だったので迷わず買って帰った文庫本。

230817名残りの花


最近はお能づいていることもあるのだろう、なぜか関連のものに引き寄せられる。昔、妊娠中のとき、やたらおなかの大きい人が多いなあと感じたのに、出産後は激減(笑)。それと似ている?

江戸時代、能や狂言は幕府の庇護下にあったが、「天保の改革」で大きな制限を受ける。
中学高校の頃、天保の改革は水野忠邦と教えられたが、推進したのは忠邦腹心の目付であった南町奉行、鳥居耀蔵(とりいようぞう)。役者を厳しく弾圧、“蝮(マムシ)の耀蔵”、“妖怪”とあだ名され、恐れられたという。
しかし、やがて失脚。丸亀藩に幽閉されてしまう。

『名残の花』には、鳥居耀蔵が主要人物として登場するが、時は明治時代、幽閉を解かれて江戸(東京)に戻ってきた隠居、胖庵(はんあん)として描かれる。
6つの連作短編のかたちで、その一つが『名残の花』。

230817もくじ


6編いずれも能に題材をとり、ほろりとさせる人情話。
胖庵とともに、全編で活躍するのが、金春座の地謡方、中村平蔵の弟子、若い滝井豊太郎。
南町奉行の鳥居耀蔵は悪役がはまりそうだが、偏屈じいさん胖庵はええ味を出している。さわやかな若者との異色コンビが謎解きをしていくスリルも。

時代背景に忠実、実在の人物も据えてのフィクション。物語そのものもおもしろいが、明治初期の、能楽師の大変さを垣間見る思いがする。

筆者の澤田瞳子さんは、令和3年に『星落ちて、なお』で直木賞に輝いたことで知られるが、学生時代は能楽部に所属されていたとか。やはり能楽に題材をとった作品に『稚児桜 能楽ものがたり』があることを知った。読んでみたい。

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Posted on 2023/08/17 Thu. 20:14 [edit]

category: 読書

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17

K朗入院日記 

昨年、センセは半年ほど、入院した。その間、見聞きしたことや知り合った方々、…思いもよらぬいい経験だったという。今も電話し合っている人もいるし、コロナ禍のなかでも、リハビリ病院ならではの交流があったらしい。
長い旅をしていたようだ、とセンセ。

いくつか書いた文章を、退院してまず一冊の本にしたのが『K朗入院日記』

K朗入院日記 表紙


先ごろ、2冊目を発行。

日記2表紙


ご興味のある方にはお送りします、と書きたいところなのだが、少部数発行につき残部なし、たぶん。1冊目にいたっては、自分の取り置きもないというのであきれてしまった。1冊ぐらい置いとけよ(笑)


ちょうど、前回、センセのブログ「ひとり同人誌」を更新してから1年が経つというので、今年も警告がきている。

2306ココログメール


1年間更新しないと、ブログを削除されることはないが、触れなくなるというのだ。

そうそう、去年もこの知らせを受けて、大急ぎで更新したのだった(;^_^A

当の本人が知らず(開設するときは一応許可をとったよ)、あまり読まれていないだろうブログなので、もうええかと思うのだが、なんかそれも心苦しくて、続けることに。

というわけで、K朗入院日記の中から1つずつ載せていくことを思いついた。

先ほど更新⇒

Posted on 2023/06/16 Fri. 11:23 [edit]

category: 読書

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16

青葉の笛 

5月10日に参加した須磨探訪の番外編は、山も海も堪能⇒
同時に、一の谷の地でもあるので、滅びゆく平家のことも思わずにはいられなかった。

鉄拐山から一の谷方面へ

230510一の谷方面へ

230510一の谷方面へ2

極めつけは敦盛さん。
敦盛塚やあつもり首塚におまいりして⇒
須磨寺宝物館では、あの「青葉の笛」を見ることもできた。

平敦盛と熊谷直実の哀切なシーンはとても有名で、お能や文楽浄瑠璃の題材にもなっているよね。『平家物語』を確認してみる気になった。

230607平家物語

巻12まである中の巻9、第89句「一の谷」にあった。

ちょっと読んでみると、語るために創られたと言われるだけあって文体がとても調子いい。声に出して読みたくなる(笑)

そうそう、冒頭は人口に膾炙する名文。
祇園精舎の鐘のこえ、諸行無常のひびきあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらはす。おごれる者もひさしからず。ただ春の夜の夢のごとし。


敦盛最期のところも名調子
熊谷の次郎直実は、「よからん敵がな、一人」と思ひて待つところに、練貫に鶴ぬうたる直垂に、萌黄匂の鎧着て、連銭葦毛なる馬に乗つたる武者一揆、沖なる船に目をかけて…

熊谷直実は自分の子と同じぐらいの少年だと気づいて、助けたいと思うのだが、後ろから味方勢が迫っており、自分が助けても結局は殺されるだろう、ならばこの手で討ち、死後の供養をしよう。これがきっかけとなって直実は出家したという。

琵琶法師が語り、聞く人は涙する、そんな光景が目に浮かぶようではある。
もちろん史実に基づいてのお話なのだろうが、お涙ちょうだい的な感動編に脚色されているよね?

敦盛が着ていた衣装や鎧、持っていた笛など、ひとつも残さず、手紙とともに、小舟一艘仕立てて、父親(経盛)のところに届ける。

その父親も返事を書いている。
今月七日、摂州一の谷において討たるる敦盛が首、並びに遺物、たしかに送り賜はり候ひをわん。そもそも花洛の故郷を出て、西海の波の上にただよひしよりこのかた、運命尽くることを思ふに、はじめておどろくべきにあらず。また戦場に臨むうへ、なんぞふたたび帰らんことを思はんや。生者必滅は穢土のならひ、老少不定は人間のつねのことなり。



今回『平家物語』にあたって、えっと思ったのは、「青葉の笛」とはどこにも書かれていないこと。
もちろん、笛は出てくるのだが、名前は「小枝」。

御首つつまんとて、鎧直垂をといて見れば、錦の袋に入れたる笛を、引合せに差されたり。これは、祖父忠盛笛の上手にて、鳥羽院より賜はられたりけるを、経盛相伝せられたりけるを、名をば「小枝」とぞ申しける。

平敦盛の最期とともに「青葉の笛」もつとに知られているが、いつのまにそんなことになったのだろう。

『平家物語』(新潮日本古典集成)の注釈には、
俗に「青葉の笛」として知られるが、芸能から出た伝承であろう。


『国史辞典』では

この笛を平敦盛が所持していたというのは俗説で、敦盛が所持していたのは「小枝(さえだ)」という名であったことが、『平家物語』その他によって明らかである。

とバッサリ。なお、日本古典文学集成では、小枝(こえだ)とルビをふっている。


敦盛の持っていたのが「青葉の笛」でなかったというばかりではなく、横笛ではなかったかも、という可能性も浮上。

手元にある資料やネット検索だけでこのブログ記事を書いているので、きちんと調べていないのだが、『国士大辞典』には、平敦盛は篳篥(ひちりき)の名手と伝えられる。とある。


ネット検索では雅楽研究所のブログがヒットした⇒

諸本ある『平家物語』のなかでも、古態をのこすとされる延慶本に触れているのが興味深い。

延慶本『平家物語』には、「漢竹の篳篥の色なつかしきを、紫檀の家に入れて錦の袋に入れながら、鎧の引合に指されたり。この篳篥をば、月影とぞ付けられたりける。」とあり、長門本も篳篥とあります。

そして
本来は篳篥であったものが、一般にはなじみのない楽器名から、一般名称の「笛」となり、庶民にも馴染みのある横笛に代わっていき、その笛を際立たせるために、以仁王の笛の話が付加されたようにも思われます。

うーん、説得力あるよねぇ。

なお「青葉の笛」は、全国に8つ以上知られているのだとか。⇒

Posted on 2023/06/08 Thu. 21:20 [edit]

category: 読書

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08

されど われらが日々ー 

昨日のこと、学生時代の友人たちで作るライングループに、Nさんが書き込んだ。

230121ライン

なんとも懐かしいものが胸を通り過ぎていった、一抹の痛みをともなって。

『されど われらが日々ー』(柴田翔)

20代の初めの頃だろうか、何度か思い入れ深く読んだ。そのあとも同じ作家が著した『贈る言葉』『立ち盡す明日』『犬は空を飛ぶか』などを読んだと思うのだが、内容は覚えていない。それなのに『されど われらが日々ー』だけは冒頭シーンもくっきり。古本屋さんで、真新しい「H全集」をみつけ買うところから物語は始まるのだった。


何度かの引っ越しをかいくぐって、文庫本が手元にある。

230123文庫本

約40年経過?

230123文庫本2

久しぶりに読んでみたが、もはや若い頃に覚えた感動はなかった。トシをとったということやね。
夏目漱石の『こころ』を再読したときと似ているような気もした。

思い違いにも気づいた。
『されど われらが日々ー』は、「芥川賞」を受けたのがきっかけで読んだのだろうと思っていたのだが、調べてみると受賞したのは昭和39年(1964)で、読んだときよりもずいぶん前のことなのだ。
小説の内容も、実は1950年代の若者を描いているようでびっくり。

そんなに時代が隔たっているとは思わなかったし、著者も自分よりもちょっと上くらいの印象だったのだが…

友人が撮って送ってくれた新聞では

230123新聞

柴田さん、御年88歳なんですね。


そうそう、最近、30年ぶりに小説を出されたとか。
『地蔵千年、花百年』

230123地蔵千年


読んでみたい。

Posted on 2023/01/23 Mon. 19:30 [edit]

category: 読書

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われ去りしとも美は朽ちず 

大塚国際美術館(徳島県鳴門市)は、何年も前からワタクシの「行きたいとこ引き出し」に入っている。積極的に動こうとしないまま今に至っているのだが、機は熟したかと思える出来事があった。

先日、これ読んでみてと知人から渡されたのが『われ去りしとも美は朽ちず』(玉岡かおる著)という本だった。

2212われ去りしとも美は朽ちず

表紙を見たとたん、え、これはあの陶板美術館では、と気づいたのだが、これまで彼女に行きたいという話をしたこともないし、というよりも、それほど顔を合わせる方でもなく、ワタクシよりだいぶお姉さん。貸し借りなど一度もしたことがないのに、今回は半ば強引とも思えるような感じで、ワタクシに本を渡して行ったのだった。

もしかしたら、ワタクシの「行きたいとこ引き出し」をのぞかれた? と一瞬ギクリ(笑)


『われ去りしとも美は朽ちず』は、ひと言で表すと、大塚国際美術館が鳴門市に建設されるまでのプロジェクト物語。

本はすでに持ち主に返却したので、文章をそのまま引用できないが、「あとがき」には、事実に基づいて構成したフィクションで、登場する人物は実在する人々とは無関係です。

というようなことを書かれていた。たしかに、登場人物は実在者名とは変えてあるが、おそらく丹念に取材して書かれたものだろうと思う。

大塚国際美術館のサイトを訪ねてみる⇒

キャッチフレーズ

2212大塚美術館うたい文句
↑このたった2行に表されたことを成し遂げるまでのはかり知れない困難と、それを一つずつクリアしていく物語、と言ってもいいだろう。

原寸大の陶板を焼く技術、釉薬の研究、世界の名画の著作権の問題、瀬戸内海国立公園に巨大な箱物を建設するという無謀、所詮、贋作やろ、金儲けか、という誹謗中傷などなど、次々にふりかかる難題に向かっていく熱い人物たちの姿が描かれている。まるでフィクションのようでもある。

陶板が焼かれたのが信楽だそうで、なんだかちょっと身近に感じられたことだった。
本物の絵画がだんだんと劣化変質していかざえるをえない運命にあるのに対し、陶板は1000年、2000年も変化しないのだそうで、そういう意味でも大いに価値あり、だよね。

この本を読んで、ますます行きたい気持ちが募っている。
大阪から日帰りバスが出ていることもわかった。よし。

Posted on 2022/12/26 Mon. 21:39 [edit]

category: 読書

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